????病を経てわかった「体はゆっくりでも回復する」 ──鍼灸師が語る“整える力”

病気の治療を続けていると、「本当に体は良くなっているのだろうか」と不安になることがあります。
私も、何度も手術や抗がん剤治療を重ねるなかで、その思いを抱え続けてきました。
けれど、鍼灸師として体を観察し続けてきた経験から、「回復のサイン」は確かに存在することを知っています。
今回は、東洋医学の視点から見た「体の回復力」についてお話しします。


????回復力とは何か ― 東洋医学の考え方

鍼灸師として働いていた頃から、私は「人の体には自ら回復する力がある」と感じていました。
東洋医学では、これを「自然治癒力」や「自己調整力」と呼びます。
体の中を巡る 気・血・津液(しんえき) のバランスが整うことで、体は少しずつ本来の状態へ戻っていきます。

整形外科でリハビリに携わっていたとき、骨折後の患者さんを多く担当しました。
最初は自力で関節を動かすことが難しく、痛みや恐怖心から動かせない方も少なくありません。
それでも、マッサージや可動域訓練を数回繰り返すうちに、
少しずつ筋肉が柔らかくなり、関節が動くようになっていく。
その瞬間を何度も見てきました。
「体は常に回復しようとしている」――そのことを現場で実感していました。

この“回復の力”は、私自身の治療の中でも感じています。
抗がん剤治療を行うと、私の場合は全身に強い浮腫(むくみ)が出て、
皮膚が二枚増えたかのような重だるさに襲われます。
しかし、不思議なことに、7日も経てばほとんどの浮腫は引き、体が軽く戻っていくのです。
体の中では、目に見えない調整が確かに働いている――そう感じる瞬間です。

このように、東洋医学でいう「整える」という行為は、
単に症状を消すことではなく、体が自ら回復できる環境を整えること。
その力を信じ、支えていくことが、治療や養生の基本だと私は考えています。


????私自身が感じた「回復のサイン」

治療を続けていると、「本当に良くなっているのだろうか」と不安になる時期があります。
私も、抗がん剤治療や副作用の波の中で、思うように動けず、
先が見えない焦りを感じることがありました。

けれど、そんな時でも体は確実に変化しています。
その変化は、大きな出来事ではなく、もっとささやかな“サイン”として現れます。

たとえば、深く眠れるようになる。
考えがまとまり、気持ちが落ち着いてくる。
そわそわしていた心が静まり、呼吸が深くなる。
浮腫が引いて体が軽くなる。
食事を「しっかり摂ろう」と思えるようになる。
鏡を見ると、髪や髭が少しずつ生えてきているのに気づく――。

それらはどれも、体が内側で回復に向かっている証拠だと思います。
回復は一気に起こるものではなく、
体が静かに、確実に整い始めている“途中のサイン”として現れるのです。

こうした変化を感じ取れるようになると、
「今の自分も確かに良くなっている」と思えるようになります。
それが、焦らずに治療を続ける力にもなっていきました。


????焦らず整える ― 回復力を育てる生活

回復力を育てるために、私が一番大切にしているのは「焦らないこと」です。
治療を続けていると、どうしても「早く元気になりたい」「前のように動けるようになりたい」と思ってしまいます。
けれど、抗がん剤治療は体にとても大きな負担をかけるものです。
だからこそ、治療を“頑張ったご褒美”として、あえて何もしない時間を持つようにしています。
ダラダラすることも、回復の一部だと考えています。

生活の中では、次のようなことを意識しています。

  • 朝に飲むステロイドの時間を毎日同じにすること。体のリズムを整えるうえで欠かせない習慣です。

  • 夜、眠れない日があっても、就寝時間と起床時間はなるべく一定に保つ。体内時計を乱れにくくします。

  • 外に出て陽を浴びたり、軽い散歩をすること。光を浴びることで気分が整い、自然と体も動くようになります。

  • 寝るときは冷えないようにする。体を冷やさないことは、東洋医学でいう「気を消耗しない」ための基本です。

  • 抗がん剤治療中は白血球が減るため人混みは避けていますが、家族や友人との穏やかな交流は続けています。

  • そして、疲れを感じたら無理せず仮眠を取る。短い休息でも体と心がリセットされ、次の一歩が踏み出しやすくなります。

こうした習慣を重ねることで、少しずつ体が落ち着き、
「整ってきた」と感じられる瞬間が増えてきました。
回復は特別なことではなく、毎日の暮らしの中に育まれていくものだと感じています。


????まとめ ― 体は必ず応えてくれる

治療を続けていると、なかなか変化が見えず、心が折れそうになることがあります。
けれど、どんなにゆっくりでも、体は確実に良くなる方向へ動いています。
そのペースは人それぞれで、他人と比べる必要はありません。

大切なのは、変化の「大きさ」ではなく、「気づけること」。
深く眠れた日や、食事をおいしいと感じた瞬間――
そんな小さな変化を楽しみながら、回復の道のりを歩んでいきましょう。

体は、あなたの努力に必ず応えてくれます。
焦らず、自分のペースで、今日も少しずつ整えていけば大丈夫です。

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